兄弟


------ある親衛隊員の証言



ブラムド様には同腹の兄弟はおられなくてね。

みんな異母兄妹だったけど、とても仲が良かったよ。



年の近いシルヴィア様とは一番仲が良くてねぇ。

特に小さい頃なんて、いつも一緒だった。

小さい頃のブラムド様は、それはそれはいたずらっ子だったから。

ブラムド様が危ないことをする度に、シルヴィア様がお叱りするわけさ。

懐かしいねぇ。



ウィリアム様も、ブラムド様によく懐いておられてね。

ウィリアム様は先帝陛下に似て、とても賢い御方でね。

賢すぎて、その…家臣が言うことはあまり

聞き入れてくださらないことも多かったんだけどね。

でも兄であるブラムド様の言うことには、それは素直に聞くんだよ。

それに唯一の男兄弟だったから ねぇ。

ブラムド様も可愛がってたように思うよ。

 

末姫のシャーロット様がお生まれになった時は三人共喜んでね。 

シルヴィア様が念願の妹だわ!とおっしゃるものだから

ウィリアム様が拗ねてしまったりね。

でもウィリアム様にとっても、初めての下の兄妹だからさ。 

可愛くて仕方なかったんだろうねぇ、毎度シルヴィア様と抱っこの取り合いさ。

あれには乳母たちも困ってたねぇ。 

そうなるといつも、二人をなだめるのがブラムド様だったね。

ちゃっかり自分でシャーロット様を抱っこしつつだけど。 


本当に、仲が良かったよ。

あたしも、あの方たちが大好きだった。




------ある親衛隊員の証言



最初に異変が起きたのは、末姫のシャーロット様だった。 


1歳の誕生祝いで、盛大な催しが行われた後…ひと月後ぐらいのことだ。


何の前触れも無く、『竜眼』を発現されたのだ。


それはもう大騒ぎだった。

先代の十王を喪ってから10年以上、誰にも現れなかったからな。 

重臣たちは「十王の再臨だ」と、大喜び。 


あのご兄妹も、まるで自分の事のようにはしゃぎまわってな。 


シャーリー、すごいぞ!

と、あのブラムド様が 

屈託のない笑顔で仰られていたのが、今でも忘れられん。


あの方は当時、跡継ぎの中では 誰よりも『竜眼』を欲していたはずだ。 

だがそれ以上に、ご兄妹が誇らしかったのだろう。

 

私はそのご様子を見て安心していたが… 


ただ一人


歓喜に湧く宮廷の中で、ただ一人

御父上である皇帝陛下だけが 

固い表情をしておられた事だけが、気になった。 





シャーロット様はそのひと月後、亡くなった。




-----ある親衛隊員の証言



よくある幼児の突然死。 


流行り病。


暗殺疑惑。


当時は色々な噂が立ったよ。


でもどんな理由であれ、あのご兄妹の慰めにはならなかっただろうね。


つらい時期だったよ。 

あんなに泣くシルヴィア様は、あたしも見たのは初めてだった。


今思えばその頃からだったね。

 ブラムド様が魔法の研究に没頭しだしたのは。


笑わなくなっていったのもね。

 

ブラムド様はね、シャーロット様の死因に 

『竜眼の発現』が関わっていたと考えていたのさ。


他の学者たちは否定したよ。 


だって『竜眼』は、 

『十王の魔力を支えることができる

  強い力を持った者にのみに発現する』 

とされていたからねぇ。

 

何より『竜眼』は、

『王の象徴』であると同時に 


星竜を崇めるあたしたち魔法使いにとって…


『神の一部』 


神聖なものだったんだよ。


その神聖な『竜眼』を宿したことで、『呪い殺された』だなんて… 

誰も認めたがらなかっただろうね。


でもブラムド様は、一人で研究を続けていった。


妹君の死の真相を知る為にも。 

残った弟妹たちが、その二の舞になるのを防ぐ為にもね。


周囲の反対を押し切って、『外れの魔法使い』なんかに弟子入りしたのも

そういったお考えがあったからさ。


 あたしたちは全力でこの方をお支えしようと、心に誓った。


・・・え? 

皇帝陛下はどうしてたかって? 


・・・・・・。 


何もなさらなかったよ。


シャーロット様が死にかけていた時も。


竜眼発現の兆候に、ウィリアム様が怯えておられた時も。 


最期まで兄を信じて、気丈に笑っておられたシルヴィア様にも。


その兄妹を救おうと必死になっていたブラムド様にも。


あの方は何もなさらなかったよ。 



だから、あたしはね。


不敬罪だの、不忠義だの言われようが 


故人となっても尚 


あの野郎が、大嫌いなのさ。






-----ある親衛隊員の証言



正直、もう王宮には戻って来ないかもな、 

と思っていた。


努力の甲斐無く 

ご妹弟は、みんな亡くなった。 


ヤケを起こしても不思議じゃない。 


だが

あの方は戻ってきた。


残っている務めを果たすと。 


もう自分には 

それしか出来ることが無いのだと。 


皇位を継承された後は

 ひたすら仕事に没頭する日々が続いた。 


何かを振り払うように。

死に向かって生き急ぐように。 


・・・・・・・・・。 


何も語らないその背中は 

悲愴 としか、言えなかった。



支離滅裂

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